セスナ

今日、私にしては途中休憩を何度かはさみたくなる長旅に出ていた。

 

帰りの電車、向かい側のホームの電車と到着時間がほぼ一緒で、PASMOを改札にかざした時に、私をみる視線を感じた。

 

父だった。

 

そういえば、父の帰宅時間は、いつもこんな時間で、

 

おかえり

 

ただいま

 

二人で照れくさそうに会話した。

 

今日は実は夕飯を一緒に食べようと父に誘われていた。

今日、私が行った場所のひとつが父の会社の近くにあるからだ。

 

私は、昨日、それを軽く、帰宅ラッシュは混むからやだよって受け流していた。

 

 

 

こんなに一緒に生きてきたのに、ずっと同じ電車使っていたのに初めて一緒に帰る帰り道。

 

何を話せば良いかわからなくて、今日、めっちゃ寒くない???ってどうでも良い話を私は提供し続けた。

私は沈黙というヤツが何とも苦手で、いや、知らない人との、、、というか、打ち解け合ってない人と言うか、つまりのとこ、私と父は同じ家に住んでいながらも、お互いに程よくもない、遠すぎる距離を長い間共有し続けている。

 

今まで、そうだな。ってなんども繰り返す父が急に私に、

 

 

紀子、セスナだ!!

 

 

って一言。

 

確かに、私の左の方からセスナが一機飛んでいった。

 

 

 

アレはあの方角だから九州か中国まで行くぞ!!

 

 

 

父の横顔は子どものようだった。

 

 

 

ねぇ、今日の月は綺麗だと思わない??

 

 

 

私はそういったのだけど、

 

 

 

みろ、また来たぞ!!今度は違う機種だなぁ。。。

 

 

 

かき消されてしまった。

 

 

 

父さん、家に着くまでにセスナが10機見れると良い事があるって願掛けいつもしてるんだ。

 

 

 

父が、私にあまりに無邪気に言うから、笑ってしまった。

 

女の私にとっては、セスナなんて公害で、しかも近くに基地があるから、疎ましい存在であって、月や星たちの方が果てしなく美しく感じる。

 

 

月は、綺麗って思わないの?

 

 

 

今日はちょっと霞がかっているし、新月だから。。。

 

 

 

父はその後もセスナが上空を通ると、子どものように、セスナセスナと繰り返し口に出し、手の指で真剣に数えていた。

 

家の近くまで来て、幼なじみのお母さんにあった。

 

 

 

あらー、ウチでは絶対見れない組み合わせよー。お父さん、幸せね。

 

 

 

なんて、言われてた。

 

家に着くまであと数歩、むしろ目の前、上空にセスナが通った。

私は、数なんて数えていなかったし、寒くて玄関を開けた。

いつもの儀式、我が愛犬によるおかえりの儀式で丁重にもてなわされていた、その時、父が、

 

 

紀子、見ろ!!

セスナだ!!

 

 

家の門扉からスーツを門瓦にこすりつけながら身を乗り出す父がそういった。

 

そういうと、満足そうに家の中に入ってきて、

 

 

 

あのセスナが来たら絶対後から一機ついてくるんだ。

良かったな、紀子、ラッキーセブンだ!!

 

 

 

そう言って、着替えに二階に上がってしまった。

 

男の人って、そういうもの?

親子ってそういうもの?

 

 

私は、きっと父に似ていると思う。

中学も一緒だし、高校も一緒だしね。

得意科目もほぼ一緒、テレビのクイズ番組で分からなくなるところも、いつも一緒。

きっと、共通点は誰よりも、兄たちよりも多いのかもしれない。

 

でも、私には分からない未知の世界があって、分かち合えないものがあって、

 

でもね、セスナの良さは私には未知だったけど、

お母さんが、お父さんに惚れた理由は分かったかもしれない。

 

ただ、父さん、私のタイプじゃないよ笑